::: 作品紹介 :::

::: 2005/07/30 :::


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エロ無し(りなちゃ程度)
オチが最低。すまぬ
 
 勤務も終わるころ鷲塚は隊員の一人から言付けを頼まれ真田家へ向かった。用事が無くとも入り浸り、なおかつほとんど晩酌までさせてもらっていたため用事を頼んだ隊員に感謝までしていた。
 梅雨も明けこの時期は日の入りも遅くまだ明るい。真田家へいつも同じ道を通るにしてもいつもと違った景色が広がった。蒸し暑いのは確かだが今はちょうど心地よい風が吹いていた。
 ちりーん。
 かん高い音のする。振り向くとちょうど風鈴屋が通りかかった。小さな風鈴を買い求め香織殿への土産とする。もちろん小次郎殿向けに酒のつまみも用意してある。
 首筋の汗を手ぬぐいで拭いながら真田家での楽しい団欒を考え歩みを進める。夕日も半分になり風も強まったので汗もひいた頃真田家の門をくぐった。
 京独特の間口の狭い玄関の戸を叩き、声をかけるが返事が無い。軽く戸に力を込めると簡単に開いた。不用心だと思うが二人とも並の人間に劣らぬ人だ、それにこんな日の高い内から強盗ということもあるまいと考え直す。
「鷲塚です。失礼します。香織殿いらっしゃいますか」
 いつものように玄関から入り、中の間にいるかと声をかけるが返事がない。奥の間に近寄ると人のいる気配共に聞き覚えのある声がする。襖に手をかけようとしたときにははっきりと聞こえたのだがその内容に愕然としし、しらず手が止まった。
「ぅう。香織……もっと」
「こんなに張りつめて……兄上……こうっ……ですか」
「いっぅ。そうだ……大分上手くなったな」
 何だったのだろう。二人ともずいぶんと息の荒い。男女二人一つの部屋でする事など……とここで非常によろしくない考えに行き着きそうになり、必死で頭から振り払う。
 いやいや、そのような事はあり得ぬ。が、しかし二人は普通あり得ぬ双子として生まれたからには常人とは違う何かが……。そういえば昔からの仲の良さは尋常では無いものが……だからといって禁忌に触れるような真似は……。
 無意味な問答を心で繰り返す事しばし。その間にも二人の声の必死さは増すばかりだった。
「強くするのだ……その方が男は……喜ぶ」
「んっ!……こう……するのね」
 それらの声を聞く内に鷲塚の疑念は一定方向を駆けぬける。己だけでは疑念を払えなくなった慶一郎は意を決してかけ声と共に襖を力一杯開けた。
「香織殿っー!! いけませぬぞっ!!!」
 その声に驚いた二人は動きを止め鷲塚の方を振り向く。二人の視線と鷲塚の視線が絡んだ。途端、鷲塚の力んだ腕から力が萎えた。
「どうしたのです。そんな大声出して」
そこには着流しで寝そべった小次郎の背中に香織が手をやって揉んでいる。二人ともそろえたように目を大きくさせていた。
「腰を揉んでもらうのがいかんのか?」
 二人は訳の分からぬといった表情で鷲塚を見つめる。当の鷲塚といえば己の邪念ぶりに嫌気が指していた。それをみた小次郎は鷲塚の心の内が読めた様子で片眉を上げたが、あえて別の事を口にした。
「そうだ、鷲塚。お前も香織に揉んでもらうがいい。かなり上手いぞ」
「あら、慶一郎殿も揉んでもらいたいなら大声を出さずにそうおっしゃればいいのに」
 ようやく合点がいったと香織は微笑んだ。
「い、いえ拙者は」
 邪念まみれの拙者の体を香織殿に触れさせるなど畏れ多い。そう考え辞退しようとした矢先
「なんだ嫌だというのか?」
 という小次郎の言葉が心に刺さる。その言葉で香織がみるみるしょげかえる。
「嫌なら仕方ありませんね」
 下を向き残念そうにため息をつく。小次郎は鷲塚を見つめるがその視線が刃物のように鋭い。
「……願いします」


 その前に、と土産を香織に差し出す。出目金の絵がかかれた風鈴は香織も気に入ったようで早速軒下につるされた。独特の高音が三人の胸に響いた。「俺には無いのか」という小次郎にもう一つの土産を手渡す。
途端に機嫌の良くなる。立ち上がった小次郎は台所に置きに行った。
「さ、楽にしてください」
 袴を脱ぎ小次郎の代わりに横になるとたすきがけの香織が横についた。小さな香炉を鷲塚の頭の側に置き香をたき始めた。
「疲れていらっしゃるでしょうから」
 という言葉に嬉しさがこみ上げる。何とも言えず良い香りがあたりを包む。
「何の香ですか」
 軽く腕から揉んでもらいながら問うと香織は手を止めずに答えた。
「白檀というそうです。気が休まるとのことですよ」
 感心しながら香織に身をゆだねていると台所から戻り横であぐらをかいていた小次郎が茶々を入れる。
「俺の時にはそんなの焚いてくれなかったじゃないか」
「兄上はこれを使わなくても十分気がゆるんでいたではありませんか」
 すぐに言い返された小次郎は肩をすくめた。
 鷲塚はうつ伏せになるように言われその通りにする。腰に手を当てられ、良い按配で押される。気持ちよさに目をつぶり、体中の力を抜いた。
「まあ、そんなものを使わなくても香織の按摩は良いだろう?」
 そう尋ねられたので鷲塚は正直に答えた。
「そうですね。これなら毎日してもらっても良いぐらいです。でも香織殿に悪いですから」
「そんなことは無いぞ。なんなら一緒に住むか」
 あわてて跳び起きて正座をすると小次郎の方を向く。
「その、あの拙者はそのようなつもりで申し上げた訳では」
 嬉しくある申し出だが、やはり血縁でも無い未婚の男女が同じ屋根の下に住まうのは問題がある。言った途端、
「もう、兄上あまりからかわぬように。ねえ、慶一郎殿」
 拙者の言葉を聞いた香織は小次郎を窘める。 
「そうだな。こんなの冗談に決まっているというのにな」
 小次郎は愉快だと言わんばかりに口元を上げた。
 苦虫をかみつぶしたような顔をみせると流石に悪いと思ったのか
「そう怒るな」
 といつもの調子で謝りだす。そうなるとこちらも怒り続ける気力がなくなり、なし崩し的に許す格好になる。
「さ、兄上のことは置いて続けましょう」
「はぁ」
 やや強引に押し切られ再度寝転がった。
 香織殿の指が筋肉の緊張をていねいに揉みほぐす。小次郎殿は声を上げていたがまったくそのような気が起きない。痛まぬよう気を使っているのが心地よかった。その心地よさが眠気を誘う。肩を揉まれていると感じたのを最後に眠りに落ちていた。
 眠りに落ちる寸前香織殿が何か言っていたような気がするがよく聞き取れなかった。



ちりーん。
 先程聞いた風鈴の音が聞こえる。沈んでいた意識が浮かび上がる。音に誘われるように起き上がると辺りは夕闇に包まれていた。羽織が身体の上にかぶせてある。おそらく小次郎殿の物を香織殿がかけてくれたのだろう。細やかな心遣いに和んだ。
 そういえば揉みの効果が現れたのかずいぶんと体が軽い。気分もすっきりとしていた。
 閉じた襖の透き間から光が漏れる。二人がそこにいるのだろう。障子を明けると小次郎殿が香織殿に酌をしてもらっている。香織殿の手が止まり「慶一郎殿。よく寝られましたか」と声をかけられた。
「すいません。寝入ってしまって」
「いいえ。それだけお疲れになっていたということでしょう。夕餉は召し上がりますか」
 卓の上には夏野菜を味噌で煮たものを筆頭に並んでいる。見た瞬間猛烈な空腹だと認識した。
「いただきます」
 遠慮がちにいうと香織殿はうなずき、食事の支度をするために台所へたった。
「香織の前だからって今更遠慮するな」
「小次郎殿」
 なおもからかうので睨みつけた。にもかかわらず小次郎殿は平然と酒を飲んでいる。あまつさえ何も無かったように酒を勧めてきた。手を出さずにいると「男の手酌では気に入らないか。我が儘な奴め」そういって支度中の香織殿を呼び付ける。
「おおい、香織。ちょっと来てくれ。鷲塚がお前じゃないとっ」
 すべてを言い終わらせぬよう口を押さえる。それを払いのけようとする小次郎殿と揉み合いになり、態勢を崩した。二人とも大人気ないことにかなりの力で揉み合っていたので襟がずいぶんと乱れている。拙者が小次郎を押し倒した形になっており傍から見ればある種の誤解を招く事は必至だった。そんな非常に間の悪い時に膳をもった香織は姿を表した。
「どうされたので」
 その言葉を出した後香織とその部屋の空気が凍りついた。
 凍りついた時がどのぐらいの長さだったのか。拙者には分からない。だがその間の香織殿の表情が忘れられない。
 香織殿がようやく動き出した。ゆっくりと部屋の中に入ると卓上に膳を置きそしてそのまま部屋を立ち去る。ふだんは静かな襖を閉める音が妙に大きく聞こえる。その間だれもが無言だった。

「か……おり……どの」
 完全に姿が見えなくなった後で呟くが聞こえるはずもなく。
「退け。鷲塚」
 短く告げられようやく体を動かす。言葉もなく着衣の乱れを整えると腹を括ったというふうに小次郎はため息をついた。
「鷲塚。これから俺は屯所にいく。時間もかかるだろう。いいか、戻ってくるまでにどんなことをしても香織の誤解を解け。わかるな」
 そう言い置いて小次郎はそそくさと家を出た。



 一人残された拙者は小次郎殿の言を心中で反すうしながら香織殿の部屋の前に立った。




「香織殿」
 襖越しに声をかける。返事はなかった。それでも何度も声をかけると小さな物音がした。襖の向こうすぐに人の気配がするようになった。
「今日は話をしたくはありません」
「さきほどの件ですが……」
「兄上とのこと……祝福しなければいけないと思うのですが……ごめんなさい。今は……」
「ご、誤解です」
 予想していたとはいえあんまりな誤解のされように思わず襖を開けてしまった。先には香織殿が驚愕の面持ちで拙者を見据えていた。思わず手を差し出した途端、香織殿は知らぬ者を見るような目で拙者を凝視すると後ずさる。一歩一歩ゆっくりと後を追うように部屋に踏み入った。
「先程のあれは小次郎殿の悪ふざけを止めようとしての事です。決して……決して香織殿の思われていることではござらぬ」
「わ、分かりました。で、ですから落ち着いて……ひぃ」
 肩に触れようとすると素早く避けられる。そのまま襖に向かおうとするので背中から羽交い締めにしてしまった。細い腕を振り回して暴れる。
「は、離してください」
「離しませぬ。拙者は衆道ではござらぬ」
「それとこれとは別で」
 暴れる香織殿を静めるために動いたところ態勢がくずれた。香織殿を下にして倒れてしまったので両腕で庇う。両腕に畳と香織殿の感触を味わう。
「大丈夫……」
 目を開けると三寸もない距離に香織殿の顔があった。大きく見開いた目と薄く紅を引いた唇が目に飛び込む。特に柔らかそうな唇が目を引く。思わず己の唇で吸い付いた。
「んっ……んん」
 想像以上の柔らかさだ。香織殿は何か言っているのだが、言葉は聞き取れなかった。夢中になって吸い続ける。口をこじ開け舌を差し入れようとしたところ、胸に強烈な痛みを覚える。香織殿が拳で叩いたのだった。そこで己が何をしているのか認識し、あわてて香織殿から離れ隣に正座する。
「け、慶一郎殿! いきなり何をなさるのですか」
 ゆっくりと体を起こしながら息苦しそうにいった。
「……し、失礼しました。ですが逃げるので……」
「あんな鬼のような形相では誰だって逃げます!」
「それは香織殿に分かっていただきたくて……」
「すぐに分かったと申し上げたではありませんか。私慶一郎殿が誰彼かまわず抱きつくなり……その口封じするとは思ってもいませんでした」
 怒り心頭で話す香織殿に新たな誤解が生じたようだ。
「誰彼かまわずなどいたしませぬ。香織殿だけです」
「私だったら何をしても良いということですか?」
 なぜか曲解される。嗚呼。
「だから違います。どうしてそのように取るのですか」
 これはもう洗いざらい話さなければいかんのか。いや今こそ好機ではなかろうか。ひざの上に乗せていた手に知らず力が入る。
「拙者が抱き締めたいのは香織殿だけです。もちろん先程の……事もです」
 ここまで言ってようやく香織殿に通じたようだ。とたんに両頬に手を沿えると顔を赤くして俯いた。
「ですから、その小次郎殿との事は不幸な事故とわかって頂けましたか」
 香織殿は無言で頷く。拙者は胸をなでおろした。
「では拙者の気持ちも……」
 これも香織殿は無言で頷く。先程よりはやや時間をおいてだが。
 拙者は膝繰り香織殿に寄る。今度は逃げようとしなかった。
 両肩に手を乗せ正面を向かせる。香織殿は何も言わず瞳を閉じた。顔を寄せ己も目を閉じ徐々に香織殿を押し倒した。
 遠くで風鈴の音が聞こえる。



 ちりーん。ちりーん。
 一際高い音が耳に届く。最初は心地よい物だったが、とたんにけたたましく鳴り響く。耳障りになったその音を止めようと聞こえる方角に手を伸ばしたが空しく宙を切った。
 そこで目を開け手先を見る。薄暗い部屋にいた。なぜか一人で寝そべっている。一緒にいたはずの香織殿はおらず、羽織が体にかけてある。
 これは一体。
 相変わらず風鈴は風にあおられ騒々しい。止めようとした所、部屋の襖が開き香織殿が入って来た。
「慶一郎殿、起きられたのですね」
 何事もないように声をかけられる。これは……この状況から察するに先程までの出来事はまさか夢。
 長い睫も柔らかな唇も細い腕も全部夢だと……
「寝ぼけているのですか?」
 拙者の顔をのぞき込んだ香織殿の表情には全くの陰りが無い。澄んだ瞳が先ほどの事が何もないただの夢だったと如実にしている。断ち難い感情に襲われ、不意に香織殿の顔に手を寄せる。
「何かついてます?」
 いいえ、貴方のかんばせが在るだけです。そのままゆっくりと顔を近づける。吐息が聞こえるほどに近づいていた時。
「鷲塚。香織がどうかしたのか?」
 襖から顔だけ出した第三者……いや小次郎殿に声をかけられる。ようやく諦めた拙者は
「いえ、糸屑がついていたもので」
「あら、そうだったの」
 あわてて払おうとする香織殿に、もう取れましたと言う。
「なんだ、てっきり香織に手を出そうとしているのかと思ったじゃないか」
 非常に鋭い指摘に香織殿は
「慶一郎殿はそんな家人がいる場所で不埒なまねなどされるはずありません。ねえ」
 と反論をしてくださった。実際には小次郎殿が正しい。大変申し訳ない。 
「慶一郎殿もたまには兄上にちゃんと言うべきです」
「いえ。言われなくても小次郎殿はちゃんと分かっていらっしゃいますよ」
 本当に良くお分かりだ。まるで心を読んでいるかのように。
 香織殿は納得しかねる様子だが、拙者がこれ以上言うつもりがないと分かると話を切り替えた。
「では、このお話しはお仕舞いにして、夕餉でも食べませんか。今日は茄子の良い物が手に入ったのですよ」
「それは良いですな」
 いいながら立ち上がる。
「おい、茄子なんてあったのか。初耳だぞ」
「兄上には慶一郎殿が起きてから言うつもりだったの。そうでもしないと兄上は全部食べてしまうでしょ」 「ちぇ。仕方ないな。茄子のためだ早くこっちに来い」
 いつもの真田兄妹が行う仲の良い口げんかを耳にしながら、部屋を後にする。
 ちりーん
 騒動に加わりたいと言いたげに風鈴は小さく音を鳴らした。
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