::: 作品紹介 :::

::: 2005/08/18 :::


*****

反則技第壱弾。
凶箱コラボレート。
非ゑろ話
 
 逢魔が時。それは黄昏の事を指す。故郷にいたころはあまり気にも止めぬものであったのだが、この天子様がいらっしゃる千年の都、京ではいやでもその言葉を実感することがある。
 それは紫鏡追討の任が下り行方を探している時に見せつけられる事実。はたまた陰陽師と名乗る少女が繰り出す式と呼ぶ化け物たち。
 いずれも今まで縁遠いものだった。しかしこの京では違った。



「暑いな」
 拙者は真夏の日差しの下に市中を巡回していた。本来なら数人で行くべきところではあるのだが、その日は猛暑の急病人が多く、人手の足りぬ状況であった。このため手の空いた者で巡回をするところとなる。
 拙者もその手の空いた一人ということで一条の辺りを見回っていた。
 大人といっても暑いものは暑い。手にしていた竹筒の水はすぐに底がついた。こういった場合近所に住む人間に頼み水を分けてもらうのだが壬生の狼は未だに嫌われ者。その時は水を分けてもらえる者を探せなかった。
 途方に暮れていると、水干姿の童が道を歩いているのを目にした。公家の家も多いため特に目立つ所は無いのだがなぜだか違和感があった。童はすぐ側の角を曲がる。拙者も童の後を追うと、角を曲がった所にあった社に入る所だった。
 京に来てあまり月日は経っておらぬ故断言できぬのだがこんな所に社があったのだろうか。だが京はやたら神社仏閣が集まっている。幾分首をかしげながらその社に向かった。童の事も気にかかるのだが、それよりもまずは神社仏閣には水がある。水を分けてもらうためだ。
 朱色の鳥居を抜け、社の敷地に踏み入った瞬間なんとも言えぬものが体中を駆け巡る。強いて言うなら悪寒に似たものだった。暑さのために体調でも崩したのかと考えたがそれ以上の異変もなかったので先に進む。
 社の回りには囲むように木が植えられており、辺り一帯木陰になっている。木陰に入っただけで体温が幾分下がるのが判った。すぐ側の手水場で置いてある柄杓で水を汲み、手を洗う。行儀は悪いが残った水で手ぬぐいを濡らしそれを首元に運びさらに涼をとる。
 一息ついていると社の奥から人が現れた。
「これは珍しい」
 そう告げたのはここの神主だろうか。左目を覆うように髪を下ろし、烏帽子に白の狩衣をまとった人物はそう言った。
「この暑気故、失礼ですが休ませて頂いております」
 拙者は小さく頭を下げる。華奢な体をした狩衣の人物は、手中の扇で顔を隠していたが、乾いた音を立てて閉じると告げる。年は拙者と同世代だろうか。かいま見た顔を覗くと、まこと瞳が印象的な美形であった。
「然様ですか。では奥へ上がられて涼まれては如何でしょう」
 突然の訪問の上に過分な扱いに断ろうかとした矢先に狩衣の人物が制した。
「ここに人が訪れるのは稀なのです。これも何かの縁でしょう。さあ遠慮されずに」
 親切で言われたことが分るため、それ以上断ることもできず拙者は言われるまま社の中に入った。
 狩衣の人物の後をついて行くと、がらんとした部屋に通され進められるまま座る。その時機を計ったように先程の見た童が盆を手に現れた。音も立てずに部屋に入ると盆の中身を拙者と狩衣の人物の前に広げる。深々とお辞儀をした後下がっていったのだがすべて無駄の無い動きの為見とれてしまった。姿の見えなくなった時狩衣の人物より出されたものの説明を受ける。
 素焼きの器に白い物が山盛りになっている。
「氷を削りあまづらの蜜をかけてあります。どうぞ」
 この真夏に氷が、と驚いていると追って説明があった。
「我が家には氷室があります故、この季節でも氷が味わえるのです」
 氷やあまづらなどを使った甘味が天子様や貴族の間の贅沢としてあると聞くがまさか己がこのようなもてなしを受けるとは思わなかった。ここで遠慮するのも憚るため器を手にとり、小さな杓を使い口にする。瞬間冷たさが口中を巡る。その後あまづらの甘みが全身の疲れを吹き飛ばすようだった。
「おいしい」
 暑気がこの甘さを引き立てている。その言葉をきいた狩衣の青年は自分の削り氷に口をつける。
 夢中になって食べていると急に頭痛がおこる。
「急いで口にすると頭痛が起こる場合があります……少し遅かったようですね」
「ええ、まあ」
 恥ずかしさに苦笑いをする。それからは頭痛の起こらぬように時間をかけて口に含んだ。舌の上で溶ける感触は至上のものだと感じた。すべて食べ終わったときにようやく名前も名乗っていないことに気づいた。
「大変な馳走に預かりました。拙者は真田小次郎と申します」
 襟を正しそう告げると狩衣の青年も名前を教えてくださった。
「晴明とお呼び下さい」 
 耳にした気がするが思い出せぬ。気のせいだろうか。
 それから各々の自己紹介が始まる。浅黄色の羽織を着た拙者に厭うことなく話しかけたのは新撰組の事をしらなかったらしい。晴明殿はここの社の宮司でない。ある時晴明殿の所領だったこの土地に社を置くことになった時に社を建てる代わりに住まうことを許されたとの事だった。今は余生を隠棲している。このため昨今の世情にはあまり詳しくなかったと言われた。口にされぬが天子様がおられる近くに所領を持つなどよほどの貴族でないとできぬことだ。
「それで先ほどの童は見事な動きをされておられたのか」
 家格の高い家と家人は比例する。納得がいった。
「あれは私の式です」
 式。その名前は近頃知り合った童女がよく口にしている。時には拙者たちに向かって投げつけてくる困った童女だ。
「式……ですか。もしや晴明殿は陰陽師でいらっしゃるか」
「いかにも。少々心得がございます。小次郎殿が陰陽師をお知りとは」
 些か驚いた晴明殿に一条あかりについて説明する。晴明殿は聞いているうちに嬉しそうに微笑む。
「昔一条家に縁深き者と交流がありました。今は絶えて久しいのですが、そうですか一条の血筋はまだ続いていますか」
 そういって晴明殿は口元に扇をよせ感慨深げに瞳を閉じた。その姿は万人が胸打たれるであろう。瞳を開けた晴明殿は
「時のうつろいは激しきものなれど、斯様に今へと続くものもあるのですね。小次郎殿。もう少し世間のことを知りとうございます。よろしければ夕餉にでも」
と誘ってこられる。
 先ほどの姿を見た後でもっと晴明殿を喜ばせたい気持ちが湧き上がっていた。しかし拙者は巡回をせねばいかぬ身。ここではずいぶんと時を使ってしまった故これ以上ここに留まるわけにはいかない。名残惜しいが断りの言葉を口にしようとした瞬間、晴明殿の面差しが激しいものとなった。
 程なく先ほどの童が現れ晴明殿の名を呼んだ。
「晴明様。御桜に」
 晴明殿はうなずくと立ち上がる。そして拙者に向かって告げた。
「小次郎殿。火急の用ができました。そなたは不逞な輩を屠るのも任と伺いました。手伝っていただけませぬか」
「どうされたのです」
 不穏な空気故刀を手に立ち上がる。
「まずはこちらへ。向かいながらお話しましょう」
 そういうと晴明殿は優雅だが急いだ足取りで社の奥へ向かった。拙者も後を追う。向かった先は社を抜けた庭にあった。巨大な岩に朱色の扉がつけられており、今はそれば開け放たれている。奥は人一人通るぐらいの空洞と階段があり晴明殿は迷わずその道を下っていった。下りきると開けた場所に出る。四方を岩で囲まれたちょうど中間の位置に大きな桜の木が根をはりまわりを囲むように水がたたえてある。桜の幹には複雑な文様が刻まれた一本の剣が鎮座していた。
「私はかねてよりある一本の桜の霊木を守ることを生涯の任と定め長い時をすごしております。妖鬼の類が時折霊木を狙って襲撃してくるのです。悉く退治しているのですが今回はどうやら数が多い故小次郎殿にも手伝っていただけませぬか」
 突然のことに驚きはしたものの陰陽師というからには常人には理解できぬことも起こるのだろう。だが
「手伝いたいのは山々なれど拙者には妖鬼を屠る力などございませぬ」
そう伝えると、晴明殿は意に介したふうでもなく
「心配ありません。小次郎殿がお持ちの刀は何より人の想いがこめられし物。そういった業物には時折退魔の力があるのです。それに……小次郎殿少し刀をお貸し願えぬか」
 いわれるまま鞘ごと手渡すと晴明殿は刀の前で印を結ぶ。呼応するように刀全体に淡い月光が如く光が帯びるようになった。返された刀を鞘から抜くとそれは切っ先まで広がっていた。その光が拙者に力をあたえているようだった。
「これで妖鬼どもにも立ち向かえるでしょう」 
 うなずくと、晴明殿は扇にて宙を指す。その向こうには黒い影がひとつ、ふたつ見えやがて無数の影となった。一見して異形とわかるその姿は大別して翼を持ち大きな爪を手にした者と手に松明を持ち、頭蓋骨に角のある骸骨だった。
「御覧なさい。あれが妖鬼どもです。宙を飛ぶものは私が相手を致しますゆえ、小次郎殿は地に這うものを」
「承知した」
 気合を十二分に込め大きく骸骨を切り下げる。断つよりも粉砕と言った方が正しい。刃に触れたあばらの骨に亀裂が走りながら砕ける。と同時にその骸骨を彼方に吹き飛ばす。吹き飛んだ先にはちょうど骸骨の群れがあり、乱れた骸骨達は互いにぶつかり合い同じように砕けていった。
「よしっ!」
 先制の一手で調子がつかめた拙者は瞬塵を用い骸骨の群れに間合いをつめ切り込んでいく。晴明殿もふわりと宙に舞い上がると翼を持った妖鬼を扇で切り結び、後に聞いた巫術と呼ばれる術を放ち倒していった。いくつの妖鬼を屠ったのだろうか。無意識に数えていたがそれもとうに諦めた。肩で息をするほどになった頃晴明殿の鋭い声が響いた。
「霊木に近づけてはなりませぬ」
 大勢の妖鬼共相手にするとどうしても討ち漏らしがでてくる。気づいた晴明が術を放ち仕留めるがその隙を別の妖鬼が逃さず晴明に一撃を加え霊木の近くまで吹き飛ばされた。
「大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫です。ですが、近くで戦うと霊木に害が及ぶやも知れませぬ。樹齢を重ねたこの霊木はもろく一撃の下に砕かれるでしょう……小次郎殿その点もお忘れなきよう」
 言われた通り霊木の儚さは見て取れる。
「では、妖鬼共を少し離しましょう」
 拙者は刃の形に気を作る技―疾空殺―を連続で放つ。妖鬼に当たるものもあれば近くの岩にぶつかるものもある。いずれもその衝撃によって妖鬼は遠方へ追いやられた。これですべての妖鬼を討ち取りたかったが運よく衝撃の波より逃れたものも多い。
「おお。斯様な技をお持ちか」
 幾分驚いた晴明殿だが、警備隊の一つを束ねし者の実力とすぐに合点がいったようだ。
 疾空殺は通常は牽制技として使うもの。それをここまで連続で放つのはいささか気力のいるものだが適時に使わねば技の意味など無し。
「はい。これで多少は戦いやすくなったでしょう」
 乾いた音を立て一度扇を閉じた晴明殿はうなずくと再び扇を広げ妖鬼の群れに飛び込んだ。
「私も全力を出さねばなりませんね」
 そうつぶやいた晴明殿は優雅に二度扇をふるうと金色に輝く玉を宙に浮かせる。その玉は天井近くまで昇りつめた瞬間勢いよく爆ぜた。
 緒を引いた破片が花火のように全体に飛び散る。その破片を浴びた妖鬼共は一瞬で粉塵をあげながら闇に還った。後に残ったのはほんの数匹。間髪いれず拙者が三段突きから派生する奥義無明剣・贄で仕留めていった。
 そこかしこに舞い散った塵も落ち着いたころ辺りに動くものは晴明殿と拙者だけになった。地上に降りた晴明殿は被害状況を確認しようと霊木に近寄る。瞬間端の岩近くより物体が回転しながら晴明殿に向かって突進してくるのが見える。とっさに晴明殿の間に立ち受け止めようとするのだが、勢いをすべてとめることかなわず、晴明殿諸共霊木の根元まで吹き飛ばされた。
「うわぁっ!」
「くっ!」
 不意に襲われたため二人とも受身を取れず、立ち上がるのに時間がかかる。拙者はかろうじて刀を物体に向け睨み付ける。見ると物体はまさに鬼瓦の化け物と云うに相応しい妖鬼で違うのは自力で宙に浮いている事だった。手足がないためか先ほどのようにぶつかって来るしかできぬ様だが今は二人とも体勢が悪い。
 晴明殿は先程の術で力のほとんどを使い果たしたようだ。今の攻撃で動くこともままならぬ様子。
 このままでは重傷を負うのは必至だった。鬼瓦は回転するのに溜めが必要のようで、攻撃に隙ができている。その隙にあわせ刀を振るうのだが全身の力が抜けた状態で振りかざしても無駄であった。
 しかも鬼瓦によって再度吹き飛ばされてまった。刀は拙者の手を離れ霊木の方へ弧を描き飛ばされる。万事休すとはこの事か。
 覚悟を決めねばならないのかと考えた瞬間霊木のほうから甲高い金属が打ち合う音がした。瞬間同じ方向より強烈な光が発せられる。二人ともとっさに光を遮ろうと眼前に腕を上げた。
 すぐに光は止んだ。と同時に鬼瓦が音を立てて消滅する。何事かわからぬまま光の方向に目をやるとにわかに信じられないものを目の当たりにした。
「兄上っ!」
「頼光……」
 浅黄色の羽織を着た拙者と同じ非常に特徴のある前髪。間違えようもない。拙者にとって魂の片割れといえる人物が目前に現れていた。もう一人の両肩に角をあしらった鎧姿の御仁は知らぬが晴明殿の驚きから拙者のそれに近しい方なのだろう。兄上は私の近くまで歩み寄ると手を差し出す。誘われるまま手を添え立ち上がると亡くなった筈の兄上の顔をまじまじと見つめた。
『そんなに見つめなくても俺は俺だ。香織……お前そっくりのいい男だろ?』
「兄上……」
 冗談ばかりいうのは確かに兄上だ。嬉しさで涙が滲んできた。でもどうして?
『俺の百舌がはじき飛ばされただろ。そのときあそこにいる頼光殿の剣とぶつかり俺と頼光殿の想いが交わった。お前たちを守りたい。まったく同じだった。でも俺も頼光殿も一人では力がない。だから二人の力と、刃に込めた晴明殿の力を使わせてもらって一瞬だけこの世に足を突っ込んだというわけさ』
 二人とも身の向こうが透けて見える。魂だけの存在ということなのか。晴明殿を見ると肩をかばいながらゆっくりと兄が頼光殿と呼んだ御仁の傍に寄った。そうして後頭を下げる。
「御休みの所をお騒がせしました」
 頼光殿は首を横に振ると晴明殿の肩を労わる様に腕を伸ばす。
「勿体のうございまする」
 頼光殿はそのまま晴明殿を抱きしめる。
「私は罪深き女でございます。こうして永遠の眠りを妨げて邂逅したことに……この上なき欣悦としておりまする」
 背中をさすりながら静かに聞き入っていた頼光殿だったが言の葉を噛みしめるように紡ぐ。
「罪……であるなら我も同罪であろう」
「頼光……」
 二人はなお一層の抱擁を交わす。拙者にとっては晴明殿が女人だった事に驚いていたのだが兄上も一目見ればわかると言われる。香織もよく見れば直ぐにわかるから気をつけるんだぞ。と念を押された。
「心配なさらずとも上手くしております。慶一郎殿もおりますし」
「そうだな……っと、もう時間かな。香織。息災でな」
 まるで近くの店に寄るかのごとく気軽にいうと頼光殿へと歩み寄る。頼光殿も気づき、名残惜しそうではあるが、晴明殿から腕を離すと霊木のほうへ後ずさる。それぞれの愛剣までよった二人は触れると同時に光の粒になり四散した。
 晴明殿はもしかしたら泣いていたのかもしれない。だが、拙者が声をかけるとごく普通の返事が返ってきた。
「さあ、我らも帰りましょう」
 そう告げかすかに微笑む晴明殿の顔は確かに兄上の言うように美しい女人の顔だった。


 社に戻りふと空を見ると夕暮れ時であった。
「もうこんな時刻か。拙者もう行かねば」
「致し方ありませぬ。この度は本当に感謝いたします」
 扇で顔を隠しながら深々と頭を下げられてしまい。あわてて言う。
「そんな事はござらぬ。拙者とて今日は感謝することはあってもされる事は……いずれにせよ忘れられぬ日になりそうです」
「まこと。此度の事我が霊肉に刻みこみ忘れぬ事に致します」
 二人はそろって微笑んだ。晴明殿は何か思いついたようで扇を閉じ鳴らす。呼応するように式の童が現れ筆と墨を晴明殿に渡した。
「鉢巻をお渡し願えぬか」
 両手で額の鉢巻を外し差し出すと晴明殿は筆で何か紋様を描く。黒々とした墨で描かれた紋様は描き終わると同時に透明となり見えぬようになる。
「女人の身では何彼と気苦労は絶えぬでしょう。本来の持ち主の気をより濃く皆の目に映すように致しました故多少は皆の目も眩ませるでしょう」
 という晴明殿の言葉で拙者の秘密がばれていたと知った。
「いつから……」
「一目見た時より。明白としたのは先程あなたに瓜二つの御仁が名を呼んでいらっしゃったため」 
「あれは拙者の兄にございます。本来兄が任に就いておりましたが先日……」
 そして己が身代わりとなり任に着いている事を話す。 
「さようか。なれば尚のこと兄上殿が仰有ったように知れぬようお心を砕かれませ」
「はい」
 晴明殿は拙者の返事に微笑むと鳥居のある入り口へと送りましょうと言われる。言葉に甘え入り口の鳥居まで案内してもらう。
「逢魔が時はいずれに出会うやも知れぬ時、ここは往来も少なき故、式に命じて近き地にて同じ装束を纏った御仁をお呼び致しました」
「重ね重ね忝ない」
 晴明殿は首を横に振りただ静か微笑んだ。
「また逢えますでしょうか」
 拙者の問いに
「いずれ。我らの時が巡り逢えば」
 こう答えた晴明殿に別れを告げ鳥居をくぐる。瞬間最初に足を踏み入れた時と同じ感覚に襲われたが、不思議と今度は心地よく感じられた。
「小次郎殿」
 聞き覚えのある声の方を振り向くと三丈と離れておらぬ場所に慶一郎殿が立っていた。
「鷲塚」
 声をかけると慶一郎殿は若干喫驚した。
「いったい何処より参られたのですか。突然現れたように見えましたが」
「拙者は単にこの神社より出ただけだが」
 そういって背後を指さすが慶一郎殿は納得しなかった。
「神社ですか? 拙者には只の塀にしか見えませぬが」
 あまりの返答に拙者も後ろを振り向く。驚いた事に鳥居から数歩も歩いておらぬというに背後に見えるは塀ばかりだった。
「馬鹿な! つい先ほどまでここに……」
 先ほどまでの事が夢幻だというのか。しかしその証である社が無い。慶一郎殿は己が目で見なければ信じぬであろうしなぁ。まあ、いいか。
 黙り込んだ拙者を見て慶一郎はあらぬ事を心配し始める。
「この暑気で小次郎殿までもあてられましたか」
「違う。これしきの暑気では参りませぬ」
 合点がいかぬようだが体調不良ではないことは分かったようだ。
「今度……折を見て話す。ぜひ慶一郎殿には聞いて欲しいんだ」
「はい」
 額の鉢巻を撫でながら先ほどの事に想いを馳せた。



 後日一条あかりに出会う機会が会った故それとなく晴明という名の陰陽師について尋ねてみた。
「兄ちゃん。そりゃ平安の昔にいたっちゅう希代の大陰陽師の名前や。なんでもうちら陰陽師の祖とまでいわれているえらい兄ちゃんて言われとるんで。今は住んどったつー所は神社になっとるよ。一説によると一条の術も晴明はんの技を受け継いどるつー話もあるんや。式を自在に操り大活躍。格好いぃー。ウチもあと数年でそうなってみせるんや!」
 奢った甘味を器用に食べながらも非常に饒舌な一条あかりに拙者は正直引いてしまったのだが気づかぬようで更に御喋りは続く。
「で、近くには頼光っーこれまた偉い侍がいたって話や。昔大江山に酒呑童子いう鬼がおってそいつを退治したいう話が残ってるんや」
 言い終わった後ぐっと湯飲みを傾けて飲み干す。あっけにとられた拙者にこんどは一条あかりの好奇心が降り注いだ。
「で、何でそんな事聞くん? 兄ちゃんにはあんま縁の無い話やろ?」
 その質問は予想できていたので
「その神社にこの前世話になったのだ」
と答えた。他にも質問が矢のように浴びせられたがさらなる甘味の追加注文で誤魔化しその場を後にした。
 あかりの言葉だとすでにこの世の人では無いらしい。だが、あの記憶はまさしく真実。あれから隊の皆からの視線が少なくなりずいぶんと楽になった。もしかしたら後生に名を残すほどの力を使い悠遠にあの霊木の守をされているのだろう。不可思議な事は信じぬ質だがあの方の事ならすべて真として信じる事ができるようだ。
 腰から鞘ごと刀を抜き正面で持つと心の中で問いかける。
『……私はまた貴方に会えますでしょうか……』
 問いに答える者はもちろんおらぬ。だが答えはすでに心の中に刻まれていた。



『……我らの時が巡り逢えば……』



---------------------------------
謝罪の後書き

xbox otogi〜百鬼討伐絵巻〜のキャラを無理矢理に小次郎と絡めさせました
百鬼討伐絵巻を知らぬ人は月華を知らぬ人以上にいるでしょうすまぬ。
ただ書いていて非常に楽しかった。
本来なら頼光はゲーム中一度もしゃべらぬ無口なシャイボーイ(笑)のため作中でも無口にしたかったのですが力不足がここにもorz
ゲーム中の晴明は永遠の命を持っている(ゲーム設定)ためある時より現実の晴明神社に結界を張り、多重空間を作り上げ俗世とは離れて暮らしている。(個人設定)
そこに小次郎が迷い込んだという。本来なら作中で分かるようにせねばならないのだがこれまた力不足で(略
興味が湧いたら
http://www.o-to-gi.net/top/ 公式ページへ


一条あかりの似非関西弁は本当にすいません。関西人ではないのでネイティブが分からずイメージで書いているため読みづらいものに(オイ

ついカッとなってやった。
今も反省していない
inserted by FC2 system