::: 作品紹介 :::

::: 2006/01/26 :::


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途中でコンセプトが変わった話。
ゑろは濃くするため別話に分離。
このためよく分からない文章に。
 
 皆が寝静まった頃、香織が床にいると隣に寝ていた鷲塚の手が伸びてくる。
 鷲塚の手はそろそろと香織の胸元をいじり始めると早速乳首を探し当てつまみ出した。
 寝ていた香織もようやく目を覚ましいつものごとく応えようとするのだが、はたと思い出し珍しく拒むのだ。
「今日は隣に人がいます」
 香織が小次郎として巡回に出ていた時に男に絡まれていた娘を助けた。どうも体調が良くないようで、助けた時にそのまま気を失ってしまった。仕方がないので家に連れ隣室に寝かせている。夜鷹の格好をしていたので気づかなかったが金髪碧眼の異人の娘であった。いまさら放り出すわけにも行かず途方に暮れる。
 その後、家に来た鷲塚によりこの娘が雪という鷲塚の顔見知りだと分かる。雪は口もきけぬほど熟睡しているので明日起きてから事情を聞く事となった。
 本来なら隣室は鷲塚が寝ているので今日は香織と同室に布団を敷いたのだが……
「音を立てぬようにすれば良いでしょう」
といって鷲塚は止めぬ。声を荒げればそれこそ雪が目覚めてしまう。
「しかし……ぅん……」
 唇に吸い付かれ、反論のできぬまま鷲塚の手は香織の着物を脱がせていった。
 香織は鷲塚の胸板に触れる。なぜか燃えるように熱い。
 普段就寝時にはいくらか体の熱は下がるもの。となれば慶一郎は横になっていただけとなる。
 慶一郎の行動はふに落ちぬことばかりだ。だが止めようとしても慶一郎は上にのしかかっている。香織の力ではのけられない。
 困った事に慶一郎の手により揉みしだかれて寝ぼけていた体に官能の火が灯る。
 そうなると知らず声を出してしまいそうになる。香織はこらえるのに必死だった。
 このまま慶一郎と情交を交わすかどうか迷いあぐねていると、妙な気配が感じられた。「慶一郎殿……外に」
 普通に言ったつもりが吐息交じりになってしまった。それはともかく慶一郎はその言葉を聞いて、眉一つ動かさずにただ頷いた。
 慶一郎はすでに気づいていたようだ。そのまま慶一郎は香織の体をまさぐるふりをしながら、いつのまにか布団の脇に寄せていた脇差を香織に握らせる。
 いよいよ気配が濃くなり殺気まで放ってきた。庭に面した障子が勢いよく開け放たれると、刀をもった何物かが襲いかかってきた。刀は一直線に寝具に向かって振り下ろされる。それを跳ね起きた慶一郎が刀で受け止めると、脇から香織が飛びかかり喉元に脇差を突き付ける。慶一郎は瞬きほどの間、動きの止まった侵入者に当て身を食らわせる。
 崩れ落ちた侵入者の得物を素早く取り上げ縛り上げ土間の柱にくくりつけると二人はここでようやく一息ついた。

 小半時も経った後に息を吹き返した侵入者は襲おうとした二人から厳しい尋問を受けることとなった。
 侵入者は香織の誰何に答えず、黙っていた。ただこの家が新選組の縁の家とは知らなかったらしい。
 聞いた途端侵入者の男は顔色が変わった。
「今言わぬとなれば……屯所にてさらに聞くよりほかあるまい」
「そういえば、この前捕まえた不逞浪士はどうなりました」
「一通り拷問を施したのですが口を割らぬ故、両手両足に五寸程のクギをさした後、蝋燭をとりつけ火を灯しました。肉が焼け傷口にこらえようのない痛みが走ると聞きますが、気丈にも一刻は持ちこたえました。さて、この男はいかほどまでもつでしょうな」
 刀の身を男の頬につけ、かすかな冷笑まで浮かべながら告げる慶一郎を侵入者にはどう見えたのだろうか。
 唇の色まで変わった男は震えながら声を絞り出した。
「い、……言う。後生だ。勘弁してくれっ」
 


 この男、先刻雪にちょっかいをかけていた男の一人であった。優男に邪魔をされ腹いせに後をつけ、仲間と報復しようと狙った。夜半に集合するはずだが、仲間の誰もこないのでしびれを切らして一人で押し入った。
 後をつけた時、雪も連れ込まれていたのを見て、優男を切った後で雪もかどわかし嬲るつもりだった。
 それを聞いた香織は呆れ果てる。
「見下げた奴だ」
 女物の着物を着た香織と男の言う「優男」が同一人物だとは気が付かなかったらしい。男は男言葉を使う香織を不思議そうに見ていた。
「夜が明けたら番所に連れて行きましょう」
 慶一郎が告げると香織は「おねがいします」と言いながらうなずいた。そのとき香織は雪のことを思い出す。雪を寝かせている部屋へ様子を見に行くと、静かに寝息をたてている。それだけ疲れているということなのだろうが、今は雪の心が乱れていないことに香織はほっとした。
 部屋から出て障子を閉めようとした時、またも気配を感じる。慶一郎や捕まえた男のものではない。
 気配は庭のほうから放たれているため今一度部屋に入り、刀を構えながら庭に面した障子を一寸ほどゆっくりと開く。
 隙間から庭を覗くが特に人影はない。代わりに空から白いものが舞っている。
(雪……)
 今夜は初春になって初めての雪が降り始めていた。淡雪のような白さの容姿をもつ「雪」が訪れた夜に、空からも「雪」が舞い降りたことにいささか因縁めいたものを感じていた。
 それからしばらく庭を確かめる。気配はまだ感じるがそれらしいものはない。気にはなるが害はないようなので香織は放っておくことにした。
 

 一番鶏の鳴くころ。新雪が踝の当たりまで積もる中、慶一郎は縛り付けた男を近くの番所にひったてていった。門の前で見送り、家の中に入ろうとしたときに、塀の一部に不思議と雪の無い場所があることに気づいた。真新しい足跡もある。先刻まで何物かがいたようだ。
 昨晩の気配はここにいた人物が発していたようだ。
 侵入者の一味であるなら男が捕まったとなればすぐにでも逃げ出すであろう。正体の見えぬ相手であるが分からないのであればこれ以上することも無い。心の片隅に留めるだけにした。



 家の中に入り雪の寝ている部屋を覗くとちょうど目が覚めたころであった。
「ここは……」
 困惑気味の雪に香織は説明し始めた。
「では、ここの主が助けてくださったのですか」
「兄はすでに任務に出ている故直接会うことはかないませぬが、これも縁、ゆっくり養生するよう申しておりました」
 まさか私が助けたとは言えない香織は兄小次郎のしたことと話した。新選組だというとややこしいことになりそうなのでそれは省いた。
 それを聞き雪は頭を下げる。礼儀正しさに香織は好感を持った。
「お腹が減っているでしょう。朝餉をもって参ります」
 笑顔で言うと雪もぎこちないが笑みを返した。


 朝餉を終えると、唐突に雪が真顔で香織に質問した。
「ところで、襲ってきた男以外には誰かいたのでしょうか」
 特にいなかったと香織が答える、それについて問うと、雪は思い違いかも知れない。と言葉をつけつつ
「すぐ近くに……、私の知っている人がいた気がしたので……」
と答えた。その表情は悲喜両方を備えていた。
「誰か探しているの?」
「ええ、もうずっと前に生き別れた家族を……」
 詳しく聞いてみようかと考えた時、鷲塚が帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ。して番所は如何でしたか?」
「ええ、ちゃんと引き渡して参りました。ところで雪殿は……その様子なら問題なさそうでござるな」
「ええ」
 二人の会話を黙って聞いていた雪だがかなり驚いたようだ。
 慌てて慶一郎は真田家と昔から家族同然の縁があると説明する。
「てっきり妹さんか新造さんかと……」
 再度訂正をいれる慶一郎だが、新造はともかく、なぜ妹と間違えられたか不思議そうだった。それは香織がここの主が兄だと答えたためだが、その説明を香織は後にした。
 慶一郎は何かを思い出したように、そういえばと香織に雪に不埒な真似をしたのは昨日捕まえた男以外にもいたのかと聞いてきた。
「たしかあの男を含めて四人だった……と兄から」
 そうですか。とひとり合点がいったように慶一郎がつぶやくので、香織はどうしたのかとたずねた。
「番所に着いた時、早朝にもかかわらず騒がしいので理由を尋ねると、不逞の輩故吟味されたし。とかかれた紙を頭に張り付け、縄で括られた男どもが今朝ほど番所前に捨てられていたとのこと。侵入者の顔見知りであったようなので、もしやと思ったのです」
 男どもの証言によると、異人の着る外套を身につけた男が目の前に立ったかと思うと、次の瞬間には当て身を食らい縛り上げられていた、ということだった。
 話を聞くなり雪の顔色に変化があった。
「異人の外套……まさか」
「そうやもしれませぬな」
 心当たりに実際出会ったことのある慶一郎は頷いた。
「二人とも知り合いか」
 事情を知らぬ香織に雪が事情を話す。生き別れた義理の兄がおり、名前を守矢と言った。
「あ、あの……男たちはどこで出会ったのか聞いていますか」
 雪は真剣な眼差しを向けつつ問うた。
「ええ、そうだと思って吐かせています」
 用意の良い慶一郎は近辺の地図を懐から取り出すとこの家の場所から男たちの示した地点までの道程を丁寧に教える。雪は一言も漏さぬよう聞いていた。
「分かりました。では早速向かってみます」
 居ても立ってもという風情で側においていた得物を握り締める。
「しかし、まだ体は本調子ではないでしょう」
 香織は雪の体調を考え止めるが、雪はかぶりをふった。
「ありがとう。でも行かなければいけないの」
 そう語る雪の瞳には決意が宿っていた。成就の為にはどんな苦労も厭わぬと定めた想いを溢れるばかりに湛えていた。
(ああ、この娘も……)
 その眼差しに覚えのある香織はそれ以上は強く言えなかった。
「助けていただいて感謝していたと、主の方にお伝えください」
 そう言って雪は真田の家を後にした。
 香織はせめて飯でも、と、白米を炊き俵に結んだものを持たせる。中にはこの辺りでとれる菜のお新香をいれた。
「無理はされぬよう」
 手渡す時に告げる。
「守矢殿に出会えると良いですな」
 続けて慶一郎も言葉を添える。
 雪は無言で頭を下げた。危ない足取りだが一歩、また一歩と新雪を踏み分けていく雪の後ろ姿を二人は見送った。
 その足で慶一郎も屯所に向かう。準備を整えたらすぐに後を追うといって香織は一旦家に戻った。
 


 急いで支度を整え小次郎として男装で家を出る際、再び妙な気配を感じた。昨晩感じたものと同じものだった。昨晩と違うのは今度は姿が見えていた。赤毛の髪を無造作に後ろに束ねた長身の男は異国の外套を羽織っていた。今朝雪が無い箇所に立ち、壁にもたれていた。
 とっさにこの男が雪の探していた男、守矢だと気づく。
「何用か」
 小次郎が声をかけると守矢は無言で小次郎を見る。そして短く用件のみ口にした。
「女は……」
 雪殿の知り合いにしてはなんともぶっきらぼうな話し方だと思いつつ小次郎は答えた。
「雪殿のことなら大事無い。先程出て行かれた」
「さようか……」
 そう言った守矢は会釈をすると、踵を返し去ろうとした。何処に行ったかなど一切問わぬし、会おうという気さえないように思えた小次郎は
「外套の男を探していると言っていたが貴殿のことでは」
 会わなくてもよいのか。暗に告げると、守矢の足は止まる。だが、小次郎の問いに答えぬまま再び立ち去ろうとする。
 男の煮え切らぬ態度に、なおも言葉を続けようとする時、風切り音と共に弓矢が男に向かって飛んでいく。
 突き刺さるかという間合いまで迫った時、守矢の姿がかき消える。小次郎が驚きのため目を見開いた途端、一間程離れた場所に姿を見いだした。守矢は矢の放たれた方向に駆ける。小さな茂みの側にいた、弓をつがえた男に向かって下段から斬りつけた。刃は手首を斬り男は弓を落とす。その場で跪いた男に刀を向けながら守矢は鋭い視線を向けた。
「あの女はもういない。これ以上構うな。次は命がないと思え」
「ひぃ……」
 男はもんどりうって逃げる。守矢はあえて追わなかった。懐紙で血を拭き取り刀を納めた守矢は小次郎に告げた。
「昨日の蝿はこれですべて追い払った。これで憂いもあるまい」
 そうして今度こそ小次郎の制止も聞かずこの場を立ち去った。
 小次郎は何がなにやらという心境だ。
「もしかして……人知れず雪を守っていたのか」
 それならば、夜中から感じた気配も、なぜか一部分だけ無かった雪も理由はつく。  しかし小次郎の呟きに答える者はいなかった。



 数刻後、憮然としないまま小次郎は慶一郎と落ち合い先ほどの始終を話した。
「守矢殿は大変無口だと伺っています」
 その言葉に多少の溜飲は下がったものの、不可思議な行動には疑問が募る。
「元々感情を表に出さぬとの事ですし、会わぬのにも事情もあるのでしょう」
「それにしても、ああも雪殿を無下にするとは……」
 小次郎はいつの間にか雪に感情移入していた。その点を指摘され、
「まあ、異人という事で気構えしたが、雪殿は誠にもって礼儀正しい。そのような者を厭うなどあってはいけないと思わないか。ところで慶一郎なら女人に追いかけられたらどうする?」
 話の矛先を変えるため別の質問をすると
「そのようにならぬように先に話し合います」
 慶一郎は返答した。
「慶一郎殿らしい話だが面白味がないな」
 真面目で堅苦しい慶一郎はあくまで正面から状況を切り開くだろうという予測はあった。
「面白くなくて結構です。第一そのような事を聞いてどうなると」
 眉に皺を寄せる慶一郎に小次郎は笑いながら謝った。
「そうだな。悪かった。ただ聞いてみたかっただけなんだ」
 慶一郎は憮然として言葉を続けた。
「第一されるかどうかも怪しいものに……」
「なんだ……追いかけて欲しいのか」
 小次郎の笑い方の質が変わった。
 慶一郎はなにか言い繕おうとするが徒労に終わる。
 その日、一日中小次郎の機嫌が下がる事はなかった。
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