::: ある一日 :::

::: 2006/01/05  :::


*****

非エロ 一応ゼット×アウラ でもザック×エルミナの可能性有り。
エマさんが……この方は研究に生きる方ということで。
 
 前に登場してから幾日。
 皆、待たせたな!!(超笑顔)
 みんなのアイドル(今はアウラちゃんのアイドルでもある)このゼット様の大活躍っぷりを今日もちょこーっとだけお見せしちゃう。
 いやもうホントはばーっと全部見せたいところなんだがほら、世の中プライバシーって言葉が暗躍する時代なので、今日のところはこれで勘弁な!(キメッ)
 今日の話の舞台はファルガイアでも人通りの多いとある町とだけ言っておこう。なんでか老け顔のおっさんもこの町によく来るという情報をゲットしている。いやあなんでかなぁ。ここにはえらく度胸のあるウェイトレスしかいないってのに。
 おーっと、賢明な皆さんならピンときたのではない? そうあの元魔族というか故あってニンゲンと魔族をUターン就職するはめになったあのネエさんのいる町さ。
 まあ、ジークの旦那の元ではえらくこき使われた印象も無きにしろあらずのオレ様ではあるがそんなことは水に流すとしよう。
(いや、ニンゲンに戻った後でちょっとお土産もってお礼参りをしようかなぁ〜☆なんて考えた瞬間にあの老け顔からアクセラレイター食らったのはここだけの内緒だ。てか老け顔はほかの男が近寄るのも嫌がるなんて心がせま〜い)
 その因縁深いネエさんに会う理由はただ一つ。アウラちゃんが会いたいとおっしゃったからに外なりません。
 いやさ、この前いつものようにアウラちゃんにオレ様の冒険譚を聞かせていたらネエさんの話になってさ。瞳を輝かせて、「ぜひとも会いたい」なんて言われちゃオレ様に拒否権は発動できませんでした。
 というわけで道中は危ないんで自称世界一(アブナイ)科学者エマの姐御にガルウィングを走らせてもらいオレ様とアウラちゃんここに推参ッ!



「誰に話しているのですか?」
 ガルウイングの中でかなり酷い独り言をしゃべるゼットにアウラはけげんな顔をしながらたずねた。
「あ、いやちょっとね。ここ数日の出来事をちょっとばかり反すうしてたんだ。ところでガルウイングの乗り心地は?」
 答えをはぐらかすためゼットはほかの話題をふった。対してアウラは笑顔をほころばせながら明るく答えた。
「ちょっと体がふわふわして耳なりがしますけど、とても快適です」
「それなら良かった。いやぁこれでも最初はすごいもんだったんだよ」
 そう言いつつゼットはいつものごとく怒涛のしゃべりを開始させようとする。しかし今回は操縦席の人物が制止した。
「ゼット君。もうそんな昔の話してる暇はないわよ」
「お、もしかしなくても着いたのか。いやぁ。世の中便利になったもんだ」
 操縦席の隙間より外の景色を覗いたゼットは珍しく感嘆の言葉を漏らす。
 操縦桿を握るエマは手早く自動操縦に切り替える。手の空いたエマはにっこりしながら言葉を続けた。
「まあね。すべてが今生きている私達の技術じゃ無いのは残念だけど」 ガルウイングは失われた時代の技術を元に「ゼペットじいさんの六人の弟子」と呼び合う技術者によって空飛ぶ技術として再生したものだ。
「手探り状態からここまでいくのは立派だと思うぜ! うん」
 大仰な身振り手振りを交えつつ褒め言葉を繰り出す。
 普段と違う態度にエマは内心驚きながらこれも喜ばしい変化だとほくそ笑んだ。
「これもアウラちゃんのお陰かな」 エマは本当に小さくつぶやいたのだが、腐っても魔族(肉体改造済)のゼットの耳に届いた。
「今スイートな名前をバッチリこの耳が捉えたんだけど、何がどうしたってんでお陰なんだ? あ。もしかしてオレ様の素敵な成人男性(オトコ)っぷりがぐんぐん急成長ってことかな。ふふふ。オレのあふれんばかりのミリキに今更気付かれてもおそいぜッ」
 ゼット特有の言い回しに脱力を覚えるものの、エマは概ね同意する。
「……っはは。まあそんなところね。それよりもいいかげん彼女のところに戻ったら。もうすぐ着陸するわよ」
「ッ! そりゃいけねぇ。早速準備しなくちゃな」
 珍しく短く会話を終えるといそいそとアウラの元に戻って行った。
(ほんと変わったわ……)
 エマはしみじみとしていたが、肩や首を回し体をほぐす。気持ちと操縦を切り替え、着陸準備に入った。



 着陸後三人は目的の酒場へと向かう。昼は軽食も出しているため客足は絶え間無い。
 店内にはいった瞬間声がかけられる。
「いらっしゃい……ってあんた達どうしたんだい?」
 目を大きくしながら答えたのはエルミナだった。
「久しぶり、ちょっとマスターの食事が食べたくなったものだから」
 エマは軽く答えると奥で聞いていたマスターは心底うれしそうに声を張り上げた。
「こんな美人の願いならいくらでも叶えますよー。エルミナ、奥の席に案内頼むぁ。あ、メニューは特製ランチでいいかね」
 一同がハイと答えるとマスターは腕をまくりながらフライパンを動かし始める。
 エルミナは一行を奥の席に案内する。そこでようやくアウラの事に気づいた。
「あ、あれ。なんだかえらく可愛らしい娘がいるじゃない」
 その言葉にだれよりも敏感に反応したのは本人よりもゼットだった。
「よくぞおっしゃいました今日のイチオシお薦めガール(十代の部)はこのアウラちゃんに他なりません。……あ、そんなエマ・エルミナの両姐さんも冷たい視線を投げないでくれ。やっぱと……いえなんでもございません」
 紹介することに余計な単語を挟んだせいで、女性陣からいらない恨みを買ったゼットは干からびた魚のようにおとなしくなった。
 それを尻目にエルミナはアウラにむかって言葉をかける。
「えーと」
「アウラと言います。あ、あのっ」
 声の方向に向かって一歩歩いた途端足元の段差につまずいた。大きく態勢を崩したところをエルミナは素早く手を回し抱きとめる。
「ありがとう……ございます」
「礼を言うほどのことじゃないさ」 干からびて色調までセピア色だったゼットはここでようやく復調し、あわててアウラに近づいた。
「大丈夫かい? アウラちゃん」
「はい。エルミナさんが支えてくれましたから」
 ゼットは大仰に安堵する。
 アウラのやや緩慢な立ち上がりを見て盲目であることにエルミナは悟った。
 アウラの服についた埃をエルミナがはらった後、エルミナは手を差し出しながら笑顔で言った。
「じゃ、改めてあいさつだね。私はエルミナ。よろしく」
「はい」
 対するアウラもまぶしい笑顔を見せながら答える。
「立ち話もなんだしね。こっちにおいで」
 と言いながらエルミナはさりげなく手を引いて席まで案内していった。
(ああ!? 俺のナイトでブシな役割がッ)
 口には出さないがゼットの落胆ぶりは、どこかの演劇賞が取れるほどの見事な表現だった。



「はいお待ち」
 エルミナは曲芸とも思われるほど大量の皿を細腕二本で運び、すべてをきちんと並べた。
「凄いわね〜」
 感嘆するエマにエルミナは多少の照れ交じりに
「マスターに鍛えられたからね。それよりも早く食べてみなよ。私から見ても今日の出来は凄いからさ」
 たしかに目の前に広がる料理は質、量ともに想像以上だった。
 キッチンの向こうからマスターは皿の水気を拭きながら、ちらちらとこちらを覗いている。よほど気になるらしい。エマは軽くマスターに笑顔を見せた後目の前の肉を一口に切り口にする。
 途端目を輝かせたエマは、「美味しい〜」と満面の笑みと立てた親指をマスターに向けた。
 ゼットやアウラも次々と口に運ぶとそれぞれ感想を漏らす。
「うんっまーい。あの親父の作った物とは思えぬ出来。いやぁ、人は見かけによらないね」
「本当に美味しい……あ、あのこれどうやって作るんだろ。今度つくってみたいな」
「あら、アウラちゃんが作るなら美味しさは臨界点突破間違いないね」
 結局惚気に入る二人だがともかく皆賛辞の言葉を口にする。
 エルミナが騒々しさに呆れながらもマスターの方を向くと、当人は背を見せ小刻みに震えていた。
 一緒に仕事をするようになって数カ月。あれはマスターの喜びを押し隠そうとしている仕草だとエルミナだけが知っている。もっとも今まで見た中で一番震えが大きいからこっそり涙でも流しているのかもしれない。そっとしておこうとエルミナは決めた。

 
「ふぅ。もうお腹いっぱい」
 食後のデザートまで平らげた一行は大量の空いた皿を前につぶやいた。
「よくもまあ、これだけ食べたね……」
 皿を片付けながら皆の食欲に呆れているエルミナにエマは指先を振りながら弁解した。
「お姫さんと一緒にいるとどうしてもみんな大食いになっちゃうの。ほら、目の前で美味しそうに食べられたら自分もお腹すいちゃうでしょ? あれよ、あれ。みんなと別れてから結構経つけど、この癖だけはなんだか残っちゃったみたい」
 体のいい理由をあげている気もするが、じっさいあの姫さんの食欲を知っているエルミナは納得してしまった。
「じゃ、ご飯も食べたしこの辺りを観光と洒落込むか! っ!!」
 狭い店内にもかかわらず激しいリアクション付きの誘いをかけたゼットは、最後の決めポーズでテーブルに右手の小指をぶつける。
「いやあ、やっぱりオレぐらいの大物は大きな世界がよく似合う。いざ行かん!」
 ちょっぴり涙目になりながらも根性で言葉を続ける。
 アウラ以外の女性陣は呆れた表情を見せる。
 心中は皆同じで「これ以上いて営業妨害になる前に」店を出ることにした。
 勘定をすませた後、三人は店の前でどこに行こうか相談していると、店からエルミナが出て来た。
「今日は早退させてもらったよ」
 理由を問う前にエルミナが答える。
「せっかくだから、町を案内してくればいい。ってマスターもいうしさ」
「さすがマスター。気が利くわね」
「あらやだ、あのおっさん料理がうまいだけじゃねーな。さてはオレのカリスマにメロメロ?」
「それはないと思いますけど……」
 各々口を開きしゃべり始める。途端に閑静なこの場所は騒々しくなっていった。
 エルミナは賑やかさに呆れると同時に自然と笑みがこぼれる。
(なんでだろ……ずっと前にもこんな事があった気がする。騒々しい事なんて好んでするわけじゃないのに……)
「どうしたの?」
 笑みにきづいたエマが問うがエルミナは首を振るとごまかすように答えた。
「あ、いや皆があんまりおかしくってね」
 それを聞いたエマは
「っ、もう私はゼット君と一緒にしちゃだめよ」
 と優しく反論する。
「そりゃ聞き捨てならねぇ。……ッ! だがしかし、オレほどの魅力溢れる成人男性(おとなのオトコ)ってこのなら確かに納得! いやあ照れちゃうな」
 激高の後、頭の上に発光器具でも浮かびあがらんばかりの勢いで閃き、そして朗らかに照れる一連の動きをすべて独り相撲で行うゼットであった。
「(いろいろツッコミ所はあるけど)納得してるならそれでいいわ」 
 相手をすることすら放棄したエマは肩を落としやや投げやりに言う。
 エルミナは呆気に取られ、一呼吸おいた後、大きな声を出しながら文字どおり腹を抱えて笑い出す。
「ッ、ッッはは。あははははハは。もう駄目。我慢の限界ッ!」
「だ、大丈夫ですか」
 皆が心配するほどひとしきり笑った後、涙目になった目を指で擦り気分を落ち着かせる。
「ヒク……ィ……。ごめん。もう落ち着いた。いやもうあんまりおかしいもんだからさ」
 なまじ普通の感覚も持ち合わせているエマはあきらめの表情で呟く。
「仕方ないわ……ゼット君がいれば皆がおかしなテンションになるのよ」
 エルミナはこれ以上言及することは出来なかった。
「……ま、この件はおいといて。案内したい場所があるんだけど」
 おいとくのかよ!。というゼットのヤジもあがったが、ここは皆無視することにした。



 エルミナが案内したのは町の外れにある小さな丘だった。
 木々や芝が青々と茂り、ところどころに心地よい陰を作る。午後のやや強い日差しを避けるのにちょうど良い。
 エマとアウラは木に寄り添い木陰に座る。
「ここは町が一望出来るから……気に入ってるんだ」
 エルミナはそういいながら皆に紹介した。  
「うひょう。この町だけじゃねぇ。向こうの地平線までバッチリだ」
 自称ゼットアイ!(効果音付き)といいながら額に手を当て遠くを見渡す。どこからか本当に変な音が聞こえてきたのはゼットの体内にそういう機能を付け足したらしい。
「ここは風や水の音がとても力強いですね。でも優しく響いて……私を包み込んでくれる」
 髪をなびかせたアウラは盲目である代わりにその他の感じる事を一生懸命説明する。
「よかった……気に入ってくれたようだね」
 そう呟くエルミナに親指を立て「バッチリ」という合図を送ったゼットは丘を流れる小川にアウラを導くと手を川につける。
「気持ち良い……」
 心地良さそうな表情を見せるアウラをゼットはこれまたうれしそうに見つめる。
 木陰で見つめる年長者のエマは二人が見せるまぶしい光景を眺めながら思わず
「青春ね……」
と呟いてしまった。
 言った後にこれでは自分が老けたようだと少し後悔するがさすがにそれは口に出さなかった。



 ひとしきり遊んだ後、木陰に戻った二人をエルミナが持参した焼菓子が出迎える。
「紅茶もあるなんて用意いいですね」
「マスターが包んでくれたのさ。礼は後でマスターに言ってあげなよ」
 アウラは、はい。とうなづく。
「にしてもあの顔で菓子もうまいとは……つくづく侮れねぇ」
 ゼットが一口ぱくつく。二個目に手を伸ばそうとした時に至近距離から爆音と地響きが襲う。
「うひょょょょう」
 目の前の食べ物はすべてひっくり返る。慌てて皆が様子を伺うと直径が人と変わらないほどの大きな岩がゼットから数メートルの地面にめり込んでいる。
「何だっ!!」
「何なの!」
 刀を構えながらきょろきょろと伺うゼットは先ほどまでは存在しなかった物体を目にする。
「ありゃ……」
 ゼットの声にエマが即答する。
「トロール!?」
 その答えにゼットが疑問を投げかける。
「? ありゃたしかマウンテンバスいるやつでここら辺で見かける事は無いはずじゃ?」「そうなんだけどッ! 今ここにいるのは幻じゃないわね。……あー困ったなぁ」
 観光目的のエマには戦闘手段を持ち合わせていない。この場で戦闘力として期待できるのはゼットしかいなかった。
「ふ……燃えるシュチュエーションじゃねぇか。みんなの命……オレが勝手に預かる」
 無駄に余裕をみせつつゼットが愛刀を抜く。「姐さん……アウラちゃんを頼むぜぇ」
 そういってトロールに向かって全力で走り出す。
「桜花星奧煌ッ!! こいつできまらなきゃ嘘だぜッ」
 いきなりゼット最大の奥義を繰り出しトロールを「Z」の文字に切り刻む。
 トロールはそれ以上何もできずに、どさりとその場に倒れる。
「どうよっ! オレの敵じゃねぇ。カンラカラカラ。オレってば最強ぉ! 頼りになるだろ?オレってば」
 勝利の決めポーズをしながら皆の方を向く。
 対して、エルミナとエマの表情は依然と暗いままだった。
「なんでぃ。オレの活躍がうらやましいってか? ん? 後ろ? ってはぁーー!!」
 振り向いた途端ゼットは飛び上がる。
 一体だけだと思っていたトロールは十体近くいた。
「タンマ。洒落にならんぞ……」
 トロールの集団は仲間が倒された事に気づいた。そしてその倒した相手であるゼットにも気づく。トロール達はすべての視線をゼットに向ける。さすがのゼットも背筋が凍る。
「やべぇ……姐さん。アウラちゃんを連れて逃げてくれッ」
 手数の多い技はあまり持ち合わせていないゼットは複数の敵とは分が悪い。このままでは女性陣に被害が及ぶ。
「(やりたかないが)地獄の一丁目で男を磨くぜ」
 ゼットは皆を逃すため一人で戦う事を決めた。トロール数体に向かって斬りかかっていった。
「気をつけて下さい!」
「ゼット君。後頼んだわね」
「死ぬんじゃないよ!」
 女性陣はゼットの事を心配しながら足手まといになるためこの場を逃げ出した。



「町まではこないでしょ」
 三人は丘を駆け下り、町に向かう。だがその道先にはまたもトロールが陣取っていた。
「まずいわ……」
「あっちにも道がある。遠回りだけどそちらを使おう」
 エルミナが指さし皆は方向を変えるがトロールに気づかれた。
 エルミナはアウラの手を引き走り出す。
 全力で走るが、トロールの追い上げがすさまじくこのままでは程なく捕まってしまう。
「ここは私が囮になるから……早く行って」
 エマが武器ではないが携帯している小瓶を構えながらエルミナ達を逃がす。
 アウラは躊躇するが、エルミナは頷くとすぐにアウラを連れ走り出した。
(さすが元騎士。状況判断力はすごいわね)
 エマは無駄な動きはせず、行動に移したエルミナに感心する。小瓶を眺めつつ呟いた。
「これって武器じゃないけど……足止めぐらいにはつかえるわね」
 小さな小瓶には無駄にパステル色の液体が入っている。違う色の液体をそれぞれ両手に持つ。
「まさかこんな所で使うとは思わなかったわ」
 そういうと向かってくるトロールに投げつける。
 トロールの体にぶつかった小瓶は割れ、中身がトロールにぶちまけられる。だが、何も起こらない。
 トロールは首をかしげる。だが、不都合がなさそうなのでそのままエマに突進してきた。
 そこにエマがもう一つの瓶を投げつける。次も被害がないとおもったトロールは避けもせずに突進を続ける。またも小瓶はトロールの体にぶつかり中身が体を覆った。
 変化が起こったのはその時であった。いままでパステル色の液体だったものがみるみる色を白色に変え、凝固し始めた。数秒後には液体全体が白濁し、トロールは身動きができないようになっていた。
「本当はガルウイングの燃料として開発してたんだけど、ほかの液体と混ざるとこうして固まっちゃうから採用中止したのよね」
 それでも持ち歩いていたのは、いつか固まらない物質と出会った時に直ぐその場で実験したかったからだ。
「それがねぇ……こんな風につかえるとはねぇ」
 今もなお動こうともがくトロールを眺めながらエマはしみじみとしていた。
「ホント人生って何が起こるかわからないわ……」
 そこが良いんだけど。と心の中で続けながらエマは二人の後を追った。
 


 町の入り口がエルミナの目に入ってきた。
「もう少し……だから……頑張っ……」
「は……い……」
 ずっと走ってきた中でそれでもアウラを安心させようと絶え絶えに声を出す。アウラも状況は同じだが必死で声を絞り出した。
 お互いの気遣いがそれぞれに勇気を与える。
 だがエルミナの心には悔しさで一杯だった。
(逃げるだけ……この子も……誰もまた守れないのか)
 トロールはなかなか追いつけないことに苛立ち、近くにあった人の頭ほどある岩を掴むと二人に向かって投げ付ける。
 音を立てるほどの勢いで迫ってくる岩をすんでのところでエルミナが気づき、アウラを抱き抱えながら真横に飛び避けた。
 二人の体は地面にぶつかった。柔らかな草のお陰で軽傷ですんだ。がアウラは気を失ってしまった。
「……っう」
 痛みでエルミナの顔が歪む。立ち上がろうとするがすでにトロールは手の届くほど近づいていた。
 エルミナはアウラの顔を自分の体でかばう。トロールは己の拳をその上から叩きつけようとした。
 致命傷も覚悟した途端急にトロールの動きがひどく緩慢になった。
 (いたぶるつもりなのだろうか)
 だがエルミナに深く考える余裕はない。隙ができたのであれば機に乗じるだけだ。アウラを抱きつつ地を蹴りトロールの制空権から逃れる。
 トロールの拳がエルミナがいた地面を叩いたとき、トロールの滑稽なパフォーマンスは終了した。
 直後に凄まじい音がやや間を開けてエルミナの耳に飛び込んできた。
 爆音にふさわしい土煙が上がりそこにいた者の視界をふさぐ。それが収まり視界がはれた時、各々信じられない光景が広がっていた。
 トロールは勝利を確信していた。拳の下には打ちすえた獲物が転がっているだろう。もしかしたら柔らかい肉が飛び散っているかもしれない。だが現実には堅い地面のほかには何も無い。いや、他にも見えているのだがそれが何か永遠に理解できなかった。
 エルミナは先程の奇妙な光景のほかに見えるはずの無いものまで見えていた。目がおかしくなったのかと疑ったぐらいだ。だが現実にはトロールの喉元に刃を突き付けた茶髪の男がいたのだ。その男を確認した途端とてつもない安堵感と喜びを覚えた。
 男は刃をトロールの首にめり込ませたかと思うと、瞬時に頭と胴体を真っ二つにした。切断面から体液があふれ出しながら、体だった肉塊は地面に伏した。
 男は物言わずエルミナの前に立つ。ここでようやくエルミナは声をかけた。
「今度は……間に合ったね」
「ああ」
 いつもは気丈なエルミナが泣きそうな顔をしていた。だがすぐに微笑みを浮かべる。ザックはエルミナに近寄り、腰に手を回そうとしたところで邪魔が入った。
「ザック!」
 どうにか敵を一掃したゼットと、合流したエマが先に逃がした二人を迎えにきたのだ。
「これからが良いところだってのに……」
 ザックは舌打ちしながら二人を迎える。その様子に今度は声を立てながらエルミナは笑った。
 合流した一行は気絶したアウラの介抱のため、町に戻った。
 その間、しきりにアウラを心配するゼットを宥めるのに皆は苦労した。


 町に戻った一行は宿をとり、そこにアウラを落ち着かせた。
 医者も呼び、見てもらったが気絶と擦り傷程度で後は心配ないとのことだった。
「後の介護は二十四時間戦えるこのオレにまかせとけ! 心配すんなって。気が付いたらちゃんと公表するから。な。なッ! なッ!!」
 というたっての願いにより、アウラの介抱はゼット一人にまかせ、一行はマスターの店で一息つくことにした。
 マスターは暖かく迎えた。特に料理にべた褒めだったエマに対しては至れり尽くせりの迎え方だった。
 エマも、もらえるご好意はありがたく。という事で笑顔でサービスを受けている。
「俺の時とはえらい違いだな」
「そりゃ、店のウェイトレスにチョッカイだす人間と一緒にはできないだろうね」 
 事もなげにいうエルミナにザックは苦笑するしかなかった。
 エルミナはザックに話があるからと店の外に連れ出す。その間エマはマスターが喜んで相手をするだろう。
 二人きりになるとエルミナから離しをきり出した。
「さっきはありがと。でもどうしてあそこに?」
「たまたまマスターの店に行ったらみんなで出掛けたって聞いたんで追っかけた。そしたらいきなり戦闘してるんでこっちがびっくりだ」
「そう」 
 それからしばし無言が続く。
「……今日相棒は?」
「ハンペンの事か? しばらくあいつは一人になりたいってさ。おい、その目はなんだよ。別に愛想尽かされた訳じゃないからな。ちゃんと十日後に落ち合う約束してるから」
「ふうん」
 再び無言が続いた。エルミナが何か言いたそうにしているのをザックは感じていたが、エルミナが話し出すのを待ち続けた。
 そのうちエルミナは大きく息を吸うと言葉を口にした。
「敵にやられそうになった時、敵がゆっくりに見えた。今思うとあの場のすべてがそう。ねえ、これってあんたにはなんだか分かるんでしょ」
 もちろんザックにはそれがアクセラレイターを用いた時の作用だと分かっている。今は使えるものも少ない。辛うじて現存するのは、かつて騎士として名を馳せたエルミナとザックの両名のみだ。だがそれをザックは告げるつもりはない。
「……さあ。でも死ぬかも知れない時だったろ。人間死ぬ時は不思議な力を出すって言うから……それじゃないのか」
 ザックとしては主演男優賞ものの演技をしたつもりであったが、観客には大根役者だった。ふぅうん。と気のない返事を返した。
「じゃ、話は変わるけど。あんたの技……アクセラレイターってのは、やってる時は、どうゆう風にみえるんだい?」
 ザックは少し考えた後、エルミナに説明を始めた。
「そうだな……まず対象に向かって意識を集中させる。それから相手のことだけ考えながら少しでも早く近くに行くように体を動かす……」
 ザックはエルミナの瞳を見つめ続けながら一歩一歩と歩み寄る。エルミナはザックの真剣な眼差しに射竦められ動けない。体が密着するほどまで寄ったザックは口封じとばかりにエルミナの唇に己のものを重ねようとする。
 ザックの唇に柔らかなものが当たる。だがそれはエルミナの唇ではなく人差し指であった。
「感想聞くのにキスなんて必要ないでしょ」
 眉をひそめていうエルミナにザックは残念そうに笑いながら答えた。
「受講料ってことで」
「あほらし……」
 エルミナは呆れ果てる。
「てなことでまあ、まわりの背景なんて気にして無いんだな。これが」
「そんなことじゃ剣士失格だね。周りも見える余裕もなきゃ一人前じゃないさ。何事もね」
 エルミナがそう言うと、ザックは一瞬寂しげな表情を見せた後、またも苦笑いしながら。
「ああ」
 と短く告げる。
「あーあ。なんだか真面目に考えるのが馬鹿らしくなっちゃった。……せっかく昔のことに関わりあることかと思ったのに」
 過去の記憶を失ったエルミナは昔のことを思い出したい。ただその一身だった。
 それを聞き、すべてを知るザックは教えたい衝動に駆られる。だがそれは一緒にエルミナが背負わされたつらい事も同時に話すこととなる。それだけは避けたい。
 だからザックは冗談交じりにしか本音を口にすることしか出来なかった。
「俺。今のあんたが好きだぜ」
「……馬鹿」
 エルミナはザックの顔を見ずにマスターの店へ歩きだした。
 ザックはエルミナが怒ったのかと思った。だが実際は不意の一言で赤面したエルミナがその顔をザックに見られないためにその場から立ち去ったのだ。


 
 数時間後、気を取り戻したアウラは、その途端にゼットに抱きつかれて仰天する。
「オレ……もうすごく心配したんだ」
「ありがとうゼットさん。でも大丈夫ですから」
 そう言うがゼットはなかなか体を離さなかった。
「ゼットさん……? みんなもいらっしゃるのでは?」
「あ、みんなはオレが呼ぶまでこないから。アウラちゃんの寝起きを見る権利はオレのもの」
「はあ……」
 それからしばらく二人に無言が続くがそれを破ったのはやはりゼットだった。
「いやもうアウラちゃんがいつ起きるかと目力を最大限にして見守ってたんだけどね……こうして目を覚ましてくれて……安心しちゃったらね……アウラちゃんが柔らかいってのもあってね。今まで目につぎ込んだ力が余っちゃって、別の場所に移動しちゃってね。その場所が最大パワーなんだな」
 いまいち要領を得ない説明にアウラは「ええ……」としか言えなかった。
「……で」
 押し黙ったゼットはアウラの手を該当箇所へ導き触れさせる。その場所は主にゼットの腰の部分であった。
 触れただけでは分からなかったアウラも触れ続ける事でゼットの意図することが理解した。
「分かっていただけたかな?」
 ゼットは紳士ぶって問う。アウラは返答に困るが「はい」とだけ答える。
「では、ここはベッドの上だし押し倒しちゃってもよろしいかな?」
 あやうく勢いで「はい」と答えそうになったアウラだが、そこはTPOを考え「いいえ」と口にする。
 途端にゼットは
「えー」
などと、駄々っ子の口調になる。アウラは見えないが唇をとがらせて見た目も駄々っ子そのものだった。ゼットの性格からこのままでは床の上で寝転がることはしそうだと思ったアウラは
「今すぐはさすがに嫌ですけど……後で二人きりになったら……いいですよ」
 と非常に小声で懐柔策に出る。ゼットに選択肢はない。
「イヤッホー。それならとっとと二人になるべく裏工作だぁ。根回し上手が成功の近道でい。あ、アウラちゃんはまだしばらく横になっててね」
 と、言いながら皆をよぶべく外へ飛び出して行った。数分も経たぬうちに皆が様子を伺いにくる。
「大丈夫?」
 という皆の問いにアウラは笑顔で答えた。
 今日はこのまま泊まろうという提案をだれとも無く口にする。だれも異論を挟まなかったので、部屋を追加で二部屋取り、一つをエマが、一つをザックが使うことにした。
 それぞれの部屋に別れる時、エマは男性陣にそっと耳打ちする。
「私は美容のためにも特製耳栓つけて早寝するけど……他の人に迷惑かけちゃだめよ」
 二人は神妙な顔付きで頷いた。



 翌朝一行は帰り支度を整えガルウイングに乗り込む。ザックもついでに乗せてもらうことにした。見送りにきたエルミナを含め皆眠そうだったがエマだけが肌の艶も顔色も良かった。



    
inserted by FC2 system